'97年11月作成


  アトピー性皮膚炎について

アトピー性皮膚炎とは

 アトピーというのは「奇妙な」という意味のギリシャ語atopiaに由来し、家族あるいは、家系内に出現する異常な過敏反応として、1923年にCocaとCooke によって名付けられた。

 アトピー性皮膚炎は、日本皮膚科学会によれば「増悪・寛解を繰り返す、掻痒のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ」と定義されている。そして、アトピー素因とは、@家族歴・既往歴に気管支喘息、アレルギー性鼻炎、結膜炎、アトピー性皮膚炎のうちのいずれか、あるいは複数の疾患がある、またはAIgE抗体を産生しやすい素因をもつ者とされている。

 アレルギー性の湿疹を生じて再発をくり返すこの病気は、かっては子供のうちにほとんどが完治してしまう小児の疾患とされていた。しかし最近大人になっても治らず、重症化する成人型アトピー性皮膚炎が増えている。この30年間に有病率が3%から14.5%と、5倍近く増加している。また、小児のアトピー性皮膚炎の有病率は28%、成人では2%の有病率を示す発表もある。アトピー性皮膚炎は遺伝的素因を有する人に発症しやすく、その家族内発症頻度は20〜30%である。

 アトピー性皮膚炎に対する抗原としては、食物抗原と環境抗原が主要抗原とされており、前者は主として乳幼児に、後者は年長児及び成人において特異抗原になっていることが多い。

 本症における食物抗原としては、古くから卵白、牛乳・大豆が三大アレルゲンとして注目されてきたが、最近は米や小麦など、日常摂取する食物が原因となっている場合があることが指摘されている。皮膚症状との因果関係を自覚することが困難であり、本症の慢性化に関与している可能性がある。

 環境抗原のうちアトピー性皮膚炎と関係が深いのは家塵、ダニであるが、この関連性が注目されるようになったのは、同抗原に特異的なIgE、IgG及びIgG4抗体の出現率と血中濃度が高いことや、ダニ抗原を除去した生活環境に身をおくことにより皮疹が軽快すること、ダニ抗原を用いた貼布試験が特異的陽性反応を示すことなどの知見に基づく。

 また、抗原とは関係なく、皮膚表面の角層に異常があって、水分の吸収、保持ができなくなることで湿疹が生じ、そのために異常なアレルギー反応が生じるとの説もある。 アレルギー反応は症状の発現までの時間の長短によって即時型の反応と遅延型の反応に大別され、さらに機序の面から即時型はT〜V型に、遅延型はW型に分類されているが、アトピー性皮膚炎はIgE抗体の関与するT型アレルギーだけでは説明がつかないとする説もある。すなわち、IgE抗体が上昇しない患者が2〜3割いるので、接触性皮膚炎を起こすW型アレルギーも関わっているとする考え方が有力視されている。

アトピー性皮膚炎の治療

 治療法には薬物療法のほか食事療法、減感作療法、光化学療法、細菌ワクチン療法、海水療法、ニンニク入浴法等色々な治療法が試みられている。原因物質がわかっている場合にはそれを取り除くことが第一であるが、原因がはっきりしないことが多く、その場合は対症療法となる。

 《内服薬》

 アトピー性皮膚炎において、痒みを取り除くことは抗ヒスタミン剤をはじめとするケミカルメディエーター遊離抑制薬の内服が行われる。特に小児は痒みを我慢させるのが難しく、かきむしることにより皮疹が悪化し、更に痒みが増してしまうという悪循環を可能な限り断ち切ろうというものである。表1は繁用されている、主な抗アレルギー薬及び抗ヒスタミン薬である。

 これらの薬の副作用は一般に眠気など軽いものであるが、精神的緊張を要する仕事に従事している人、てんかん患者などへの処方は慎重に行う。また、妊婦に対する安全性は確立されていないので(動物実験において催奇性が報告されている)、処方はなるべく避ける方が望ましい。

 《外用薬》

 アトピー性皮膚炎の治療の主体となる外用療法にあたっては、皮疹の症状に応じた適切な強さのステロイド外用剤を選択すべきである。現在このステロイド外用剤に対して批判的な意見もあり、一部では危険視されるようにもなっているが、使うべき時にきちんと使用することが大切で、怖がるあまり必要なときに使わないでいるといつまでも治らず悪化するということもあり、指示された通り使用すべきであると説明する。

現在よく使用されている外用ステロイド剤を表2に記した。

 非ステロイド系消炎外用剤は、ステロイド外用剤の副作用が生じやすい顔面、あるいは炎症の程度が軽度な場合に原則として使用される。長期ステロイド外用剤の使用が必要なアトピー性皮膚炎の軽快中の維持療法等に適している。またステロイド外用剤との併用あるいは合剤として、ステロイド外用剤の離脱を目的として使用することもある。現在よく使用されている外用非ステロイド系消炎剤を表3に記した。

 服 薬 指 導

 《内 服》

 ケミカルメディエーター遊離抑制薬の副作用は、表1の主な副作用の項に記したが、一般に軽微なものであるが、近年薬害の知識が普及し、患者の中には副作用を恐れてきちんと内服しない人もいる。一般的にはケミカルメディエーター遊離抑制剤は、臨床面で作用発現が認められるまでに2〜4週間必要であるといわれている。自己判断で薬を中止しないように指導すべきである。また、これらの薬は止痒薬としてよく用いられるが、その作用は中枢性のものと考えられる。従って眠気などがあっても主作用とは切り離せないものであることをよく説明する。

 他の薬との併用による相互作用については、抗アレルギー薬、抗ヒスタミン薬とも中枢神経抑制薬との併用あるいは飲酒によって双方の作用が増強するため注意が必要である。また、抗コリン作用をもつH1 受容体拮抗剤あるいは抗アレルギー薬は、緑内障、前立腺肥大など下部尿路閉鎖性疾患のある患者には禁忌である。

 《外 用》

 外用ステロイド剤を使用した場合、副腎皮質ホルモンを内服した場合に生じる副作用と本質的に同じであり、強力な副腎皮質ホルモン外用剤を大量使用すれば起こり得るものである。全身的副作用の出現には、副腎機能の抑制が指標となるが、成人に対して1日10g以下の表2のU,V群に属する副腎皮質ホルモン外用剤を単純塗布しても副腎機能の抑制はほとんど起こらないので1日10gという量が、全身的副作用出現の指標と考えて差し支えない。ただしT群に属するより強力な副腎皮質ホルモン外用剤では、より少ない量でも副腎機能の抑制が生じたとする報告があることを念頭におく必要がある 以上のように、副腎皮質ホルモン外用剤は1日10g以上という大量を用いれば、全身的副作用は生じ得るが、1日10g以上塗布する病変は、きわめて広範囲の全身性の病変であり、したがって通常の病変を有するアトピー性皮膚炎患者では、外用によって全身的副作用が生ずることは実際上稀であり、極端に神経質になる必要はない。

 局所的副作用には、皮膚萎縮、紫斑、皮膚潮紅、毛細血管拡張、多毛、色素異常等があるが、これらの副作用は同一部位に副腎皮質ホルモン外用剤を反復塗布すると起こることに顔面、頸部などの生理的に皮膚が菲薄な部位や、老人、幼児では生じやすい。

V群の副腎皮質ホルモン外用剤を1カ月間連続して塗布すれば、上記のような皮膚では前述の局所的副作用の出現はまず考えてよく、したがって上記のような皮膚に対してはV群以上の強力なものはできるだけ避け、W群やX群に属する弱い副腎皮質ホルモン外用剤か、できれば非ステロイド系の抗炎症剤を用いるとよい。

 なお、眼周囲では、緑内障や白内障などの眼科的障害の誘発にも注意が必要である。

 慎 重 投 与

☆ 塩化リゾチーム 消炎酵素剤 (ノイチーム)

   アトピー性皮膚炎、気管喘息、薬剤アレルギー等のアレルギー性素因のある患者は、アナフィ

   ラキシー様反応を起こすおそれがある。

☆ 塩酸スペクチノマイシン 淋疾治療用アミノサイクリトール系抗生物質(トロビシン)

   アトピー性体質の患者は、重症の即時型アレルギー反応が現れるおそれがある。

☆ クリンダマイシン リンコマイシン系抗生物質 (ダラシン)

   アトピー性体質の患者は、重症の即時型アレルギー反応が現れるおそれがある。

☆ 硫酸バリウム X線造影剤

   今までに硫酸バリウム製剤、その他の医薬品に過敏症反応を示したことのある患者、喘息、ア

   トピー性皮膚炎等、過敏症反応を起こしやすい体質を持つ患者ではアナフィラキシー様症状が

   現れるおそれがある。

 表1  主な抗アレルギー薬,抗ヒスタミン薬《内服》
薬剤名(代表的な商品名) 剤型・容量 用量 主な適応疾患 主な副作用
トラニラスト

(リザベン)

カプセル:100mg 細粒:1g中100mg

ドライシロップ:1g中50mg

(点眼液)

成人:300mg(分3)

小児:5mg/kg(分3)

アトピー性皮膚炎

気管支喘息

アレルギー性鼻炎

膀胱炎様症状,肝機能障害,消化器症状,貧血,精神神経系(頭痛眠気等)過敏症,BUN上昇
クロモグリク酸ナトリウム

(インタール)

細粒:1g中100mg

(吸入薬)(エアロゾル)(点眼薬)(点鼻薬)

2才未満の幼児150〜200mg(分3〜4)

2才以上の小児300m〜400mg

(分3〜4)

食物アレルギーに基づくアトピー性皮膚炎.気管支喘息.アレルギー性鼻炎. アレルギー性結膜炎. 春期カタル 〔内服〕消化器症状,過敏症,咽頭刺激感
フマル酸ケトチフェン

(ザジテン)

カプセル:1mg

シロップ:1ml中0.2mg

ドライシロップ:1g中1mg

(点眼液)(点鼻液)

成人:2mg(分2)

小児:0.06mg/kg(分2)

湿疹,皮膚炎,じんま疹.皮膚掻痒症,気管支喘息.アレルギー性鼻炎 〔内服〕痙攣,興奮,泌尿器係(頻尿,排尿痛等),過敏症,精神神経系(眠気,口渇,倦怠感等),消化器症状,肝機能障害
オキサトミド

(セルテクト)

錠:30mg

ドライシロップ:1g中20mg

成人:60mg(分2)

小児:1mg/kg(分2)

成人:じんま疹,皮膚掻痒症,湿疹・皮膚炎,痒疹,アレルギー性鼻炎

小児:アトピー性皮膚炎.じんま疹,痒疹,気管支喘息

肝機能障害,錐体外路症状,過敏症,泌尿器係(頻尿,排尿痛等),精神神経系(眠気,倦怠感等),消化器症状,肝機能障害
塩酸アゼラスチン

(アゼプチン)

錠:0.5mg:1mg

顆粒:1g中2mg

皮膚疾患,アレルギー性鼻炎:2mg(分2)

気管支喘息:4mg

(分2)

アトピー性皮膚炎,じんま疹,湿疹・皮膚炎,皮膚掻痒症,痒疹,気管支喘息,アレルギー性鼻炎 精神神経系(眠気,倦怠感等),消化器症状,循環器(顔面のほてり,息苦しい等),肝機能障害,過敏症
テルフェナジン

(トリルダン)

錠:60mg 成人:120mg(分2) じんま疹,皮膚疾患に伴う掻痒(湿疹,皮膚炎,皮膚掻痒症),気管支喘息,アレルギー性鼻炎 循環器(QT延長,心室性不整脈),ショック,精神神経系(錯乱眠気,倦怠感等),血小板減少,消化器症状,過敏症,肝機能障害泌尿器係(頻尿,排尿痛等) *
トシル酸スプラタスト

(アイピーディ)

カプセル:50mg 100mg 成人:300mg(分3) アトピー性皮膚炎,気管支喘息,アレルギー性鼻炎 精神神経系(眠気,倦怠感等),消化器症状,過敏症,肝機能障害.蛋白尿
塩酸エピナスチン

(アレジオン)

錠:10mg:20mg アレルギー性鼻炎:10mg〜20mg(1日1回)

皮膚疾患,気管支喘息:20mg(1日1回)

じんま疹,湿疹,皮膚炎,皮膚掻痒症,痒疹,気管支喘息,アレルギー性鼻炎 精神神経系(眠気,倦怠感等),消化器症状,過敏症,肝機能障害,頻尿
アステミゾール

(ヒスマナール)

錠:5mg:10mg アレルギー性鼻炎:5mg(1日1回)

皮膚疾患,気管支喘息:10mg(1日1回)

じんま疹,湿疹,皮膚炎,皮膚掻痒症,気管支喘息,アレルギー性鼻炎 心臓血管系障害(QT延長,心室性不整脈,心停止)汎血球減少症,精神神経系(眠気,倦怠感等),消化器症状,過敏症,肝機能障害,動悸   *
メキタジン

(ニポラジン)

錠:3mg 皮膚疾患,アレルギー性鼻炎:3mg(分2)

気管支喘息:6mg(分2)

じんま疹,皮膚疾患に伴う掻痒(湿疹,皮膚炎,皮膚掻痒症),気管支喘息,アレルギー性鼻炎 精神神経系(眠気,倦怠感等),消化器症状,過敏症,肝機能障害,排尿困難
マレイン酸クロルフェニラミン

(ポララミン)

d体

錠:2mg徐放:6mg

散: 1%

シロップ:0.04%

ドライシロップ:0.2%

成人:2mg〜12mg(分1〜4) じんま疹,皮膚疾患に伴う掻痒(湿疹,皮膚炎,皮膚掻痒症,薬疹),アレルギー性鼻炎  精神神経系(眠気,倦怠感等),消化器症状,過敏症,肝機能障害,排尿困難

*…重篤な相互作用があるので注意されたい。


 表2 主な副腎皮質ホルモン《外用》 (アレルギー疾患治療ガイドライン95年改訂版より)

薬効

一般名

代表的な商品名

T 群

strongest

プロピオン酸クロベタゾール

デルモベート

酢酸ジフロラゾン

ダイアコート,ジフラール

U 群

very strong

プロピオン酸デキサメタゾン

メサデルム

ジフルプレドナート

マイザー

ジプロピオン酸ベタメタゾン

リンデロンーDP

ブデソニド

ブデソン

吉草酸ジフルコルトロン

ネリゾナ,テクスメテン

フルオシノニド

トプシム,シマロン

アムシノニド

ビスダーム

ハルシノニド

アドコルチン

酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン

パンデル

V 群

strong

吉草酸デキサメタゾン

ザルックス,ボアラ

プロピオン酸デプロドン

エクラー

吉草酸ベタメタゾン

リンデロンV,ベトネベート

プロピオン酸ベクロメタゾン

プロパデルム

吉草酸酢酸プレドニゾロン

リドメックス

フルオシノロンアセトニド

フルコート,フルゾン

プロピオン酸アルクロメタゾン

アルメタ

W 群

medium

トリアムシノロンアセトニド

ケナコルトA,レダコート

ピバル酸フルメタゾン

ロコルテン

酪酸ヒドロコルチゾン

ロコイド,プランコール

酪酸クロベタゾン

キンダベート

X 群

weak

デキサメタゾン

オイラゾンD,デカダーム

酢酸メチルプレドニゾロン

ヴェリダームメドロールアセテート

プレドニゾロン

プレドニン

酢酸ヒドロコルチゾン

コルテス


表3  主な非ステロイド系消炎剤《外用》

一般名

商品名

剤型・規格

主な適応

スプロフェン

トパルジックスレンダムスルプロチン

1%

軟膏

急性・慢性湿疹,接触皮膚炎,アトピー性皮膚炎,皮脂欠乏性湿疹,帯状疱疹

ブフェキサマック

アンダーム

5%

軟膏,クリーム

急性湿疹,接触皮膚炎

ベンダザック

ジルダザック

3%

軟膏,クリーム

溽創,放射線潰瘍,急性・慢性湿疹

ウフェナマート

フェナゾール

5%

軟膏,クリーム

急性・慢性湿疹,アトピー性皮膚炎,おむつ皮膚炎,帯状疱疹

イブプロフェンピコノール

スダデルム

5%

軟膏,クリーム

急性・慢性湿疹,アトピー性皮膚炎,帯状疱疹

参考文献 : 日本アレルギー学会 アレルギー疾患治療ガイドライン95年改訂版

          医療用日本医薬品集1997年1月版   今日の治療指針1997

          都薬雑誌 Vol.16 No.9   薬局 Vol.47 No.8

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