高血圧用(降圧)剤
高血圧用剤について次のように2回に分けて解説いたします.
・第1回(今回): 高血圧概論1,利尿剤,β遮断剤
・第2回(次回): 高血圧概論2,ACE阻害剤,Ca拮抗剤,α遮断剤
A 高血圧概論1
1.多くの場合,本態性高血圧症です
血管壁にかかる圧力(血圧)の因子には,中身の量(血液量,心拍出量)と血管の狭さ(血管抵抗)があります.高血圧の人(米国高血圧合同委員会6次報告,1997年,拡張期140mmHg以上かつ/または収縮期90mmHg以上)では中身の量が多いか,または血管が狭くなっているかです.このように物理的原理は単純です.
高血圧の人の一部(約10%)では高血圧となる病気を既に持っています(二次性高血圧症).しかし,多く(約90%)では高血圧となる病気を特定できません(本態性高血圧症,遺伝素質)し,その原因は複雑です.
2.高血圧を放置しておくと危険性です
二次性高血圧症では原因疾患があり,その症状(バセドウ病:脈が速い,腎炎:浮腫,クッシング症候群:ニキビ)から高血圧であることが診断されます.しかし,原因疾患のない本態性高血圧症の初期では自覚症状がありませんので見つかりにくいのです.本態性高血圧症を治療しないで放置しておくと突然心不全や腎不全になる,すなわち本態性高血圧症は症状なしに進行して突然高度な臓器障害になる特徴があります.ですから,本態性高血圧症は静かな殺し屋(silent killer disease)ともいわれます.
フラミンガム研究(米国ボストンの地名,45〜74歳)では,「最初の測定時の血圧の高さに比例して,その後の心筋梗塞が多発する」ことが示されました.久山町研究(福岡県,九州大学,40歳以上)では,「最初の1回測定した血圧値に比例して,その後の脳卒中の発症が増えていく」ことが示されました.すなわち,血圧が高いほど心筋梗塞や脳卒中になりやすいということです.したがって,食事・運動療法で血圧が下がらない人は降圧剤を使って血圧を下げる必要があります.
3.降圧剤はその働きから2種類に分類されます
血圧の要因として,中身の量と血管の狭さがあります.これらに対する働きから降圧剤は表1のように分類されます.
表1 降圧剤の分類
| 中身の量を減らす薬剤 | 利尿剤 |
| β遮断剤 | |
| 血管を広げる薬剤 | ACE阻害剤 |
| Ca拮抗剤 | |
| α遮断剤 |
4.高血圧症に使ってはいけない薬剤があります
非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAID)は,発痛物質(プロスタグランジン,PG)を作る酵素(シクロオキシゲナーゼ)を阻害します.PGは,発痛物質として以外に,水やナトリウムの排泄を促進することから降圧物質としても作用します.そこで,NSAIDによってPGの生成が抑制されますと,高血圧が悪化する可能性があります.したがって,NSAIDには禁忌症として重篤な高血圧症が挙げられています.その他の薬剤については表2に示します.
表2 高血圧症が禁忌症の薬剤
| 薬 剤 | 添付文書の禁忌 | ||
| 一般名 | 商品名 | 用途 | |
| メチル硫酸
アメジニウム |
リズミック | 低血圧治療剤 | 高血圧症の患者 |
| 塩酸
ノルフェネフリン |
ゾンデル | 低血圧治療剤 | 高血圧の患者 |
| 塩酸
エチレフリン |
エホチール | 低血圧治療剤 | 高血圧の患者 |
| テルグリド | テルロン | 乳汁分泌抑制剤 | 産褥期高血圧の患者 |
| メシル酸
ブロモクリプチン |
パーロデル | 乳汁分泌抑制剤 | 産褥期高血圧の患者 |
| ニコランジル | シグマート | 狭心症治療剤 | 原発性肺高血圧症のある患者 |
| マジンドール | サノレックス | 食欲抑制剤 | 重症高血圧症の患者 |
| 合剤 | カフェルゴット | 片頭痛治療剤 | 重篤な高血圧症のある患者 |
| 塩酸コカイン | 高血圧のある患者 | ||
| ワルファリン
カリウム |
ワーファリン | 抗凝血剤 | 重症高血圧症 |
商品名・用途は例を記載.
5.降圧剤どうしの併用効果を簡単に覚えましょう
A A:ACE阻害剤
/ \ (注) B:β遮断剤
C D
C:Ca拮抗剤
\ /
D:利尿剤(Diuretics)
B
多くの場合,実線の組み合わせ(ABとCDが対角線となる四角の辺)では降圧効果の増強が得られ,米国ではこれらの組み合わせの一部は合剤として市販されています.ただし,腎機能障害例ではACE阻害剤とカリウム保持性利尿剤の組み合わせ(注)は禁忌です.
B 利尿剤
1.食塩のとり過ぎは高血圧の要因です
野生動物や食塩文明のない人々(アマゾン川のヤノマム族など)では,高血圧はありません.食塩の摂取は自然食品からで十分です.食塩は水を引きつける(浸透圧の強い)性質があります.食塩が吸収されて血管の中に入ると,その中で水を引きつけて血液量が増えます.すなわち,血圧の因子の一つである中身の量が増えます.
2.利尿剤は塩抜きです
利尿剤によって血管内の塩と水は出ていきます.したがって,血液量が減少し,末梢血管抵抗は減少します.
3.利尿剤は塩以外にカリウムなども一緒に抜く場合があります
このため,サイアザイドやループ系利尿剤には低カリウム血症(脱力感など)の副作用や代謝異常を引き起こす可能性があります.カリウムの引き抜きが問題となる場合はカリウムを引き抜かない(カリウム保持性)利尿剤を使用します.
4.相互作用
1)ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害剤
ACE阻害剤はレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(昇圧系)を減弱させます.アルドステロンは副腎皮質ホルモンで,ナトリウムを貯めてカリウムを排泄します.そこで,ACE阻害剤によりカリウムの排泄が抑制されます.したがって,ACE阻害剤とカリウム保持性利尿剤の併用により高カリウム血症を生じる可能性があります.とくに,腎機能障害例では原則として併用禁忌です.
2)NSAID
サイアザイド系やループ系利尿剤は塩類や水を排泄することにより降圧効果を示します.NSAIDは,PGの合成を抑制して塩類や水を貯留します.したがって,サイアザイド系やループ系の利尿剤とNSAIDの併用により降圧効果が減弱する可能性があります.臨床上,この併用は少ないようです.なお,PGは降圧物質ですから,PGの合成を抑制するNSAIDはすべての降圧薬に対して反対に作用する可能性があります.
3)ジゴシンなどのジギタリス製剤
ジギタリス製剤は細胞内のナトリウム濃度を上昇させます.ナトリウムはカルシウムと拮抗し細胞内のカルシウム濃度が上昇します.ジギタリス製剤の強心作用はカルシウム濃度の上昇によります.ジギタリス製剤による細胞内ナトリウム濃度の上昇は細胞外カリウム濃度の低下により促進されます.したがって,カリウムを抜くサイアザイド系やループ系の利尿剤は細胞外カリウム濃度を低下させてジギタリス製剤の強心作用を増強させます.すなわち,これらの利尿剤によりジギタリス中毒が発症しやすくなります.
4)トリルダン・ヒスマナール(抗アレルギー剤)
利尿剤による低カリウム血症を原因とする不整脈の誘発・心停止が報告されており,利尿剤とは併用禁忌です.
5)その他
・カリウム製剤とカリウム保持性利尿剤との併用:高カリウム血症の危険性があり,腎機能障害例では禁忌です.
・副腎皮質ステロイドとカリウム保持性以外の利尿剤との併用:カリウムの喪失が増し,低カリウム血症の危険性があります.
C β遮断剤
1.β遮断剤は落ち着き薬としても使われます(外国例)
非常事態の場合,交感神経が作動します.血圧に関して,交感神経の信号は心臓と血管に送信されます.心臓の受信装置はβ受容体です.心臓で受信するとドキドキした気分(心拍数と心収縮力の増加)がします.β遮断剤はこの受信を妨害します.したがって,β遮断剤は血圧因子の「中身の量」を減らし,落ち着いた気分(徐脈・動悸の消失)にさせます.そこで,外国では音楽家のデビュー時に気分を落ち着かせるのにもβ遮断剤を使います.
2.β1選択性のある薬剤は心臓に選択的です
β受容体は心臓以外に気管支や子宮にもあります.各β受容体は薬剤の感受性が異なり,心臓ではβ1受容体,気管支や子宮ではβ2受容体に分類されます.すなわち,β1選択性の薬剤は主として心臓に作用します.したがって,β1選択性のβ遮断剤はβ2受容体遮断による気管支収縮などの副作用を軽減します.また,β2受容体遮断によりインスリンの分泌は抑制されます.したがって,非選択性β遮断剤では耐糖能障害の可能性があります.β1選択性の有無はβ遮断剤の分類に利用されています.
3.β遮断剤はβ受容体を刺激することがあります:ISA
カテコールアミンなどのβ受容体刺激物質が存在しない場合,β遮断剤がβ受容体を刺激(本来は遮断)する場合があります.この作用を内因性交感神経刺激様作用(Intrinsic Sympathomimetic Action:ISA)といいます.したがってISAをもつβ遮断剤は,交感神経の緊張が低下した場合の心臓に対して刺激的に働き心不全の誘発を防ぐ可能性があります.この他にISAをもつβ遮断剤の特徴として,心機能低下の徐脈例に使用できること,四肢の筋肉痛やこむら返りがみられること,脂質代謝異常が少ないこと,奇異性血圧上昇(β遮断剤投与中の一過性血圧上昇)がみられることが挙げられます.米国では心筋梗塞を伴う高血圧に対してISAをもたないβ遮断剤が推奨されています.ISAの有無はβ遮断剤の分類に利用されています.
4.β遮断剤にはα遮断作用をもつものがあります
β2受容体は血管にもあり,刺激されると血管は拡張します(気管支と同様).したがって,β遮断作用だけでは血管は収縮します.血管にはα受容体もあり,刺激されると血管は収縮します.そこで,β遮断剤には血管拡張作用が期待できるαβ遮断型の薬剤があります.この薬剤の利点は末梢循環障害を合併した場合にも使用できることです.α遮断作用については次回に解説いたします.
5.相互作用
1)NSAID
降圧効果が減弱する可能性があります.
2)フェノバルビタールおよびリファンピシン
肝代謝酵素が誘導されることにより,β遮断剤の血中濃度が減少しβ遮断剤の作用が減弱する可能性があります.
3)キニジン,シメチジン,ベラパミルおよびプロパフェノン
β遮断剤の代謝酵素が阻害されることにより,β遮断剤の血中濃度が上昇しβ遮断剤の作用が増強する可能性があります.
4)アミオダロン(商品名:アンカロン錠,抗不整脈薬)
著明な徐脈,心室細動や心停止の報告があります.
5)インスリンおよび経口糖尿病用剤
低血糖になった場合,交感神経の興奮により振戦,発汗や血圧上昇などの警告反応がみられます.この時β遮断剤が投与されていると,これらの警告反応が隠蔽され,低血糖が放置あるいは遷延する可能性があります.
付表1 主な利尿剤
| 種類 | 一般名 | 商品名 | 内服 | 注射 |
| サイアザイド系および類似薬 | ヒドロクロロチアジド | エシドレックス | ○ | |
| クロルタリドン | ハイグロトン | ○ | ||
| ヒドロフルメチアジド | ロンチル | ○ | ||
| トリパミド | ノルモナール | ○ | ||
| ベンチルヒドロクロロチアジド | ベハイド | ○ | ||
| メチクロチアジド | エンデュロン | ○ | ||
| トリクロルメチアジド | フルイトラン | ○ | ||
| メトラゾン | ノルメラン | ○ | ||
| インダパミド | ナトリックス | ○ | ||
| シクロペンチアジド | ナビドレックス | ○ | ||
| ループ系 | メフルシド | バイカロン | ○ | |
| フロセミド | ラシックス | ○ | ○ | |
| ブメタニド | ルネトロン | ○ | ○ | |
| エタクリン酸 | エデクリル | ○ | ||
| ピレタニド | アレリックス | ○ | ○ | |
| カリウム保持性 | スピロノラクトン | アルダクトンA | ○ | |
| トリアムテレン | トリテレン | ○ | ||
| カンレノ酸カリウム | ソルダクトン | ○ |
商品名は1銘柄のみ記載した.
付表2-1 主なβ遮断剤
| 種類 | 一般名 | 商品名 | 内服 | 注射 |
| 非選択性・ISA(-) | 塩酸プロプラノロール | インデラル | ○ | ○ |
| マレイン酸チモロール | ブロカドレン | ○ | ||
| ナドロール | ナディック | ○ | ||
| ニプラジロール | ハイパジール | ○ | ||
| 塩酸チリソロール | ダイム | ○ | ||
| カルベジロール | アーチスト | ○ | ||
| 非選択性・ISA(+) | ピンドロール | カルビスケン | ○ | |
| 硫酸ペンブトロール | ベータプレシン | ○ | ||
| 塩酸カルテオロール | ミケラン | ○ | ||
| 塩酸インデノロール | プルサン | ○ | ||
| マロン酸ボピンドロール | サンドノーム | ○ | ||
| β1選択性・ISA(-) | アテノロール | テノーミン | ○ | |
| フマル酸ビソプロロール | メインテート | ○ | ||
| 酒石酸メトプロロール | ロプレソール | ○ | ||
| 塩酸ベタキソロール | ケルロング | ○ | ||
|
β1選択性・ISA(+) |
塩酸アセブトロール | アセタノール | ○ | |
| 塩酸セリプロロール | セレクトール | ○ | ||
| α遮断・非選択性・ISA(-) | 塩酸アロチノロール | アルマール | ○ | |
| 塩酸アモスラロール | ローガン | ○ | ||
| カルベジロール | アーチスト | ○ | ||
|
α遮断・非選択性・ISA(+) |
塩酸ブニトロロール | ベトリロール | ○ | |
| 塩酸ラベタロール | トランデート | ○ | ||
|
α遮断・β1選択性・ISA(-) |
塩酸ベバントロール | カルバン | ○ |
商品名は1銘柄のみ記載した.
参考資料
・医薬ジャーナル,降圧剤の位置付け,1997年2月号.
・日和田邦男・萩原俊男・編,合併症を伴う高血圧治療マニュアル,日本臨床社,1996.
・荒川規矩男,患者と家族のための高血圧Q&A,ライフ・サイエンス,1997.
・日本医薬品集CD-ROM,薬業時報社,1997年10月版.
・厚生省薬務局企画課・編,医薬品相互作用ハンドブック,薬業時報社,1992.
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