高血圧用(降圧)剤
前回は,高血圧概論1,利尿剤およびβ遮断剤について解説しました.今回は,高血圧概論2,ACE阻害剤,Ca拮抗剤およびα遮断剤について解説します.
【1】 高血圧概論2
1.降圧剤の指標としてT/P比が注目されています
脳卒中や心筋梗塞などの高血圧性心血管疾患は覚醒後の短い時間帯で発症することが報告されています.発症の予防策として,覚醒後の急激な血圧上昇(モーニングサージ)を抑えることが挙げられます.したがって,コンプライアンスの点も含めて効果が長時間持続する降圧剤は有用です.米国(FDA)では,降圧効果の持続性の指標としてT/P比を提唱し50%以上必要であるとしました.
T(trough:トラフ)は谷, P(peak:ピーク)は峰を意味します.
図の太線は薬剤,細線はプラセボです.
薬剤とプラセボの下降度のの差で,最も大きい値がP,最も小さい値がTです.
T/P比が100%であるということは,最大の降圧効果が次回服薬直前まで持続していることになります.したがって,T/P比が大きいということは降圧効果の持続時間が長い,モーニングサージがあまり起こらない,過度の降圧がないことから臓器負担が少ないことを意味します.現在市販のACE阻害剤のうち,T/P比が最も大きい薬剤はペリンドプリル(コバシル)です.また,Ca拮抗剤ではアムロジピンが高値を示します.
夜間血圧が下がらない症例(ノンディパー)は血圧が持続して高い群です.この群の多くは臓器障害があります.臓器障害の場合,血圧はゆっくり下げる方が良いといわれています.T/P比が大きい薬剤は徐々に効果を示しますので,ノンディパーにも有用視されています.ノンディパーをディパーにする,言い換えれば夜間血圧を選択的に下げる降圧療法は現在のところ否定的であり,1日を平均して下げる降圧療法が合理的だと考えられています.
2.血圧を下げすぎると良くない場合があります:Jカーブ現象
虚血性心疾患は冠動脈の障害による疾患の総称で,狭心症,心筋梗塞,不整脈がこれに該当します.虚血性心疾患を伴う高血圧では,拡張期血圧が下がりすぎると心筋梗塞による死亡率が高くなります.拡張期血圧と死亡率の関係は太線のようにJ型のカーブになることからJカーブ現象といわれます.拡張期血圧は85〜90mmHgが理想と考えられています.
【2】 ACE阻害剤
1.主な作用機序は昇圧因子の抑制と降圧因子の活性化です
ACE阻害剤は血管収縮物質(アンジオテンシンII)を作る酵素(ACE:Angiotensin
Converting Enzyme)を阻害します.一方,ACE阻害剤は血管拡張物質(ブラジキニン)が分解するのを阻害します.
2.ブラジキニンは"わるさ"をするらしい
ACE阻害剤の代表的な副作用には空咳と血管浮腫(重症例では上気道閉塞による死亡)があります.ブラジキニンは咳に関する各種受容体を刺激します.そこで,ACE阻害剤による空咳はブラジキニンの増加が原因であると考えられています.血管浮腫についても同様にブラジキニンが関与していると考えられています.最近発売されたアンジオテンシンII受容体拮抗薬はブラジキニンの分解に関与しないためこれらの副作用のないことが期待されています.
3.相互作用
1)カリウム保持性利尿剤
ACE阻害剤はレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(昇圧系)を減弱させます.アルドステロンは副腎皮質ホルモンで,ナトリウムを貯めてカリウムを排泄します.そこで,ACE阻害剤によりカリウムの排泄が抑制されます.したがって,ACE阻害剤とカリウム保持性利尿剤の併用により高カリウム血症を生じる可能性があります.とくに,腎機能障害例では原則として併用禁忌です.
2)ループ利尿剤
ナトリウム・水排泄作用が重なり降圧効果が増強され,一過性の急激な血圧低下が起こる場合があります.臨床上よく見られ,注意を要する併用です.
3)NSAID
前回説明しましたように降圧効果は減弱します.
4)アロプリノール(ザイロリック)
心不全あるいは腎不全を合併した場合にカプトプリルとの併用で死亡例が報告されています.両者の併用は過敏性を増強する可能性があります.
5)血糖降下剤
併用の初期に低血糖の例がみられ,入院した低血糖患者の14%にACE阻害剤の関与が考えられたとする報告があります.
6)炭酸リチウム(リーマス)
リチウムの再吸収はナトリウムと競合します.すなわち,ナトリウム欠乏時にはリチウムの貯留が起こります.したがって,ナトリウム排泄作用のあるACE阻害剤や利尿剤との併用によりリチウム中毒(嘔吐など)の可能性があります.
【3】 Ca拮抗剤
1.血管を収縮させるのに必要なカルシウムの働きを止めます
アンジオテンシンIIなどの血管収縮物質は血管平滑筋(筋収縮蛋白:ミオシン)を収縮させますが,収縮にはカルシウムが必要です.Ca拮抗剤は細胞内へのカルシウム流入を阻止して筋収縮を妨害します.心筋に対しても同様に作用します.
2.特徴として確実な効果が期待できます
Ca拮抗剤はいかなる年齢層に対しても確実な降圧効果が期待できます.
また,代謝面への悪影響は少ないとされています.大阪大学の調査では,Ca拮抗剤は合併症を有することの多い老人の高血圧に適しています.しかし,急峻な作用の裏目として,ほてり,のぼせ,動悸などの副作用があります.
3.相互作用
1)グレープフルーツジュース
グレープフルーツジュース中の物質(フラボノイドの可能性)がCa拮抗剤(ジヒドロピリジン系)の代謝酵素(チトクロームP450)を阻害し,Ca拮抗剤の血中濃度が上昇します.臨床研究ではコップ一杯程度(約250ml)でもバイオアベイラビリティが増大しています.Ca拮抗剤以外にチトクロームP450(3A4)と基質になる薬剤はシクロスポリンなど多数あり,これらもグレープフルーツジュースとの相互作用の可能性があります.
2)シメチジン
シメチジンはCa拮抗剤の代謝酵素を阻害します.ジルチアゼムやニフェジピンでは血中濃度が上昇し,副作用が増強されます.他のジヒドロピリジン系Ca拮抗剤では臨床的意義は少ないようです.
3)カルバマゼピン
ジルチアゼムやベラパミルはカルバマゼピンの代謝酵素を阻害します.したがって,併用により視力障害などの神経毒性の可能性があります.また,カルバマゼピンを減量した時点でジルチアゼムやベラパミルを中止すると,カルバマゼピンの血中濃度の低下によりけいれんなどが生じる危険性があります.
4)その他
炭酸リチウム,NSAID,ジゴキシン,フェニトインなどとも相互作用が報告されています.
【4】 α遮断剤
1.血管側の交感神経刺激を遮断します
非常事態の場合,交感神経が作動します.血圧に関して,交感神経の信号は心臓と血管に送信されます.心臓の受信装置はβ受容体で,血管の受信装置はα受容体です.α受容体が刺激されると血管は収縮します.そこで,α遮断剤には血管拡張作用が期待できます.
2.欠点は「立ちくらみ」です
β遮断剤と異なり,α遮断剤は臓器血流量を減らさないので糖や脂質代謝に悪い影響がありません.むしろ良い影響を一番強くもつ薬剤です.しかし,他の降圧剤と同様に欠点があります.急に起立した場合,下半身に溜まった血液を上半身に送る必要があります.正常では下半身の血管のα受容体により血管を収縮させます.α遮断剤はその収縮を妨害しますから,頭に血流が届かず立ちくらみをきたすことがあります.特に老人では著明ですから注意が必要です.
付表1 主なACE阻害剤
| 一般名 | 商品名 |
| アラセプリル | セタプリル |
| イミダプリル | タナトリル・ノバロック |
| エナラプリル | レニベース |
| カプトプリル | カプトリル |
| キナプリル | コナン |
| シラザプリル | インヒベース |
| テモカプリル | エースコール |
| デラプリル | アデカット |
| トランドラプリル | オドリック・プレラン |
| ベナゼプリル | チバセン |
| ペリンドプリル | コバシル |
| リシノプリル | ロンゲス・ゼストリル |
付表2 主なCa拮抗剤
| 種類 | 一般名 | 商品名 |
| ジヒドロピリジン | アムロジピン | ノルバスク・アムロジン |
| アラニジピン | ベック・サプレスタ | |
| エホニジピン | ランデル | |
| シルニジピン | シナロング・アテレック | |
| ニカルジピン | ペルジピン | |
| ニソルジピン | バイミカード | |
| ニトレンジピン | バイロテンシン | |
| ニフェジピン | アダラート・セパミット | |
| ニルバジピン | ニバジール | |
| バルニジピン | ヒポカ | |
| フェロジピン | スプレンジール・ムノバール | |
| ベニジピン | コニール | |
| マニジピン | カルスロット | |
| ベンゾチアゼピン | ジルチアゼム | ヘルベッサー |
| フェニルアルキルアミン | ベラパミル | ワソラン |
付表3 主なα遮断剤
| 一般名 | 商品名 |
| ウラピジル | エブランチル |
| テラゾシン | バソメット・ハイトラシン |
| ドキサゾシン | カルデナリン |
| ブナゾシン | デタントール |
| プラゾシン | ミニプレス |
参考資料
・医薬ジャーナル,降圧剤の位置付け,1997年2月号.
・日和田邦男・萩原俊男・編,合併症を伴う高血圧治療マニュアル,日本臨床社,1996.
・荒川規矩男,患者と家族のための高血圧Q&A,ライフ・サイエンス,1997.
・日本医薬品集CD-ROM,薬業時報社,1997年10月版.
・ 厚生省薬務局企画課・編,医薬品相互作用ハンドブック,薬業時報社,1992.
・月刊薬事,薬物間相互作用と医薬品の適正使用,2月臨時増刊号,1996.
・MEDICAL PHARMACY,降圧療法を考える,1998年5月号.
サイドメモ ACE阻害剤と心不全
ACE阻害剤の中で、エナラプリル(レニベース)とリシノプリル(ロンゲス・ゼストリル)は「慢性心不全」の効能・効果をもった薬剤であります。
心不全は心臓がそのポンプ機能不全のために@身体の組織が必要とするだけの動脈血が送出しえない(収縮不全)か、A静脈血を十分に受取ることが出来ない(拡張不全)でうっ血をきたすか、あるいはB両方の状態が出現したために生ずる臨床症候群と考えられている。このことから、心不全の治療目標は、@血行動態や運動能を改善して生活の質を高めるとともに、最終的には、A生命の延長をさせることであります。
一方、慢性心不全患者においては、血漿レニン活性は対照例と比較すると上昇しており、レニンアンジオテンシン系が活性化していることが知られています。
ACE阻害剤は、本紙の解説のようにアンジオテンシンUの作用を抑制することで、肺動脈楔入圧並びに全身血管抵抗を減少させ、低下していた心係数(心拍出量/体表面積)が増加する、すなわち、前負荷並びに後負荷を軽減して心拍出量を増加することによって、心不全の血行動態を改善することが確認されています。