高脂血症用剤

 高脂血症は沈黙の疾患といわれ、通常それだけでは何の自覚症状もなく、臨床的な理学所見も乏しく、日常生活にもまったく支障をきたさない。ただ血中脂質の高い状態が長時間持続すると、心筋梗塞、脳梗塞等の血管病変、黄色腫、脂肪肝、胆石などを起こし、はじめて臨床症状を表すようになる。近年の日本において、人口の高齢化、生活様式の欧米化に伴う脂肪摂取量の増加とともに高脂血症患者の増加が指摘されている。
 最近まで高脂血症は難解な病気であり、治療コントロールも難しいととらえられていた。しかし、近年、脂質代謝経路の詳細、動脈硬化発生との関係が明らかにされたこと、HMG−CoA還元酵素阻害剤やプロブコールなどの強力なコレステロール降下剤が開発されたこと、大規模な疫学調査によりコレステロール低下は虚血性心疾患の発生を抑制することが明らかにされたことにより、一般臨床においても高脂血症への関心・理解が高まり、今日では多くの高脂血症患者が薬剤などの治療をうけている現況である。

1.高脂血症の分類
 高脂血症とは、血清脂質が異常に高くなった病態をいい、コレステロール濃度が高値の場合(220mg/dl 以上)を高コレスロール血症、トリグリセライド濃度が高値の場合(150mg/dl 以上)を高トリグリセライド血症という。もちろん、両方とも高値の場合もあり、複合型高脂血症という。また、的確な治療を行うために、以下の分類がされる。
@リポ蛋白の表現型による分類(WHO分類)

増加するリポ蛋白 血中コレステロール 血中トリグリセライド
T 型 カイロミクロン 高値 1000mg/dl 以上
Ua型 LDL 高値 正常
Ub型 VLDL,LDL 高値 高値
V型 IDL,レムナント 高値 高値
W型 VLDL 正常 高値
X型 カイロミクロン,VLDL 高値 1000mg/dl 以上

A病因別分類

  1. 一次性高脂血症 (原発性)
    1. 遺伝性…… 遺伝的欠陥によって発生
    2. 非遺伝性… 主として食事による
  2. 二次性高脂血症
    1. 内分泌疾患:糖尿病,甲状腺機能低下症,妊娠,肥満,クッシング症候群等
    2. 腎疾患   :ネフローゼ症候群,慢性腎不全
    3. 肝疾患   :原発性胆汁性肝硬変,閉鎖性黄疸
    4. 免疫疾患  :全身性エリテマトーデス
    5. 薬剤    :ステロイドホルモン,エストロゲン,経口避妊薬,サイアザイド系利尿剤,β-遮断剤
    6. その他   :アルコール多飲

  参考 … 高脂血症解説で汎用される略字用語
   VLDL → 超低比重リポ蛋白 very low density lipoprotein
   LDL  → 低比重リポ蛋白 low density lipoprotein
   IDL   → 中間比重リポ蛋白 intermediate density lipoprotein
   HDL  → 高比重リポ蛋白 high density lipoprotein
   TC   → 総コレステロール total cholesterol
   TG   → トリグリセライド trigriseride 
   FFA  → 遊離脂肪酸 free fatty acid

2.血清脂質とリポ蛋白
 
  血清脂質 
  |  |− コレステロール        ・主として、LDL、HDL、に分布
  |  |− トリグリセライド(中性脂肪)・主として、カイロミクロン、VLDLに分布
  |  |− リン脂質
  |  |− 遊離脂肪酸
  |
  | 脂質は血清に溶けないためアポ蛋白と結合してリポ蛋白を形成して溶ける
  ↓
  血清リポ蛋白− カイロミクロン < VLDL < LDL < IDL < HDL 
         比重が軽い        |    |    |    |    比重が重い 
                        ↓−−−−−−−     ↓
                   動脈硬化促進因子       動脈硬化抑制因子 

 高脂血症はリポ蛋白代謝異常としてとらえると理解しやすい。リポ蛋白代謝経路は以下の3つに分類される。

  1. カイロミクロン代謝経路: 食事として摂取した脂質を代謝する経路。小腸で合成されたカイロミクロンはリンパ管を経て血中に入り、毛細血管内でリポ蛋白リパーゼによって分解されてレムナントになる。この時生成された脂肪酸は組織のエネルギー源として使われ、レムナントは肝レムナントリセプターに取り込まれて処理される。
  2. VLDL−LDL代謝経路: 肝で合成された脂質を代謝する経路で、全身の末梢組織にコレステロールを運ぶ働きをする。肝で合成・分泌されたVLDLは末梢組織の毛細血管内でリポ蛋白リパーゼによって分解されてIDLとなる。一部のIDLは肝に取り込まれるが大部分のIDLは肝性リパーゼにより分解されて、最終的にはLDLになる。LDLは肝や末梢組織に取り込まれて利用される。
  3. HDLによるコレステロール逆転送経路: 末梢組織のコレステロールを肝へ逆転送する。この経路は動脈硬化を抑制する。HDLは肝や小腸で合成されるが、カイロミクロンやVLDLの代謝過程でも一部合成される。末梢組織のコレステロールはHDL3に引き抜かれる。  LCAT(lecithin:cholesterol acyl−transferase)の作用によりコレステロールがエステル化されるのに伴いHDL3はHDL2となる。この一部はコレステロールエステル転送蛋白(cholesterol ester transfer protein,CETP)により、VLDL,LDL,IDLへ転送されるが、大部分のHDL2は肝のHDLリセプターを介して代謝される。

3.高脂血症の診断と治療
@ 冠動脈疾患予防、治療観点からの日本人高コレステロール血症患者の管理基準

単位mg/dl 食餌療法開始基準値 薬物療法開始基準値 治療目標値
冠動脈疾患 (−)
他の危険因子* (−)
LDL-C 140以上
(TC 220以上)
LDL-C 160以上
(TC 240以上)
LDL-C 140未満
(TC 220未満)
冠動脈疾患 (−)
他の危険因子 (+)
LDL-C 120以上
(TC 200以上)
LDL-C 140以上
(TC 220以上)
LDL-C 120未満
(TC 200未満)
冠動脈疾患 (+) LDL-C 100以上
(TC 180以上)
LDL-C 120以上
(TC 200以上)
LDL-C 100未満
(TC 180未満)

*他の危険因子とは、喫煙習慣、高血圧、45歳以上の男性、閉経後の女性、耐糖能異常、冠動脈疾患の家族歴、肥満(BMI26.4以上)を指す。
(LDL-C=LDL-コレステロール)cf.高脂血症ガイドライン検討委員会:動脈硬化25(1・2)1997
A 高脂血症の診断 …… 一次性か二次性かの鑑別             
     a. 一次性高脂血症の場合:タイプを見極め臨床症状、アポ蛋白、リポ蛋白リパーゼ測定、家族歴などから原因究明。
     b. 二次性高脂血症の場合:原疾患の治療を行い、高脂血症の改善を見ない場合、高脂血症治療に従う。

4.高脂血症薬の分類と薬効
 高脂血症の治療薬は、高コレステロール血症に対するものと高トリグリセライド血症に対するものに大別される。コレステロールが主に高い場合にはHMG-CoA還元酵素阻害剤、陰イオン交換樹脂、プロブコールが、トリグリセライドが主に高い場合はクロフィブラート系薬剤、ニコチン酸製剤が使用される。植物ステロールやγ-オリザノールなども高脂血症薬として使用されているが、効果も弱く、最近では使用頻度は減少している。

  1. HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン系薬物)
     コレステロール生合成の律速酵素の一つ、3ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoA(HMG-CoA)還元酵素を抑制することにより、肝細胞内コレステロール量を低下させ、引き続きLDL受容体を誘導させ、LDL取り込みを亢進する結果、血清LDL値が低下する。水溶性のプラバスタチン、フルバスタチン、脂溶性のシンバスタチン、ロバスタチンが該当する。TCやLDL-Cを低下させ、HDL-Cを軽度増加する作用があり、動脈硬化進展の抑制が期待される。その作用機序により、LDL受容体が欠損している家族性高コレステロール血症ホモ型には無効である。 
  2. 陰イオン交換樹脂剤
     陰イオン交換樹脂剤は安定な炭化水素からなる高分子化合物(合成樹脂)で、小腸内で胆汁酸と結合して糞便中に排泄される。腸肝循環を阻害するため、肝でのコレステロールから胆汁への異化が亢進し、血中より肝へのLDL取り込みが増加、結果的に血中LDL濃度が低下する。薬物の腸管吸収がないため安全性が高い。
  3. プロブコール
     a.糞便中への中性コレステロール排泄増加による肝でのコレステロール要求性亢進により、LDLの血中から肝への取り込みが増大した結果、血中LDLが低下するb.肝でのコレステロール生合成抑制、の2点が主な作用機序である。さらに特徴的なことは抗酸化作用であり、LDLの酸化変性を抑制することで動脈硬化の進展抑制をはかることができる。さらに、プロブコールは粥腫や黄色腫を退縮させることが報告されている。脂肪組織に本薬が蓄積し、生体内半減期が長く、作用が持続する。
  4. リノール酸類
     多価不飽和脂肪酸は植物性油脂中に多量に含まれ抗動脈硬化作用があると考えられている。特に、リノール酸、アラキドン酸が有効である。作用機序は十分明らかにされてはいないが、コレステロールと結合し、代謝されやすいエステル型化合物に転換する。コレステロールの胆汁酸中への異化・排泄促進作用などがあげられている。抗脂質効果の強いアラキドン酸は、一般食品中には少なく、ビタミンB6の存在下でリノール酸から生成されるため、薬剤としてビタミンB6とリノール酸の合剤が多い。
  5. リン脂質製剤 …  リン酸コリン Phosphatidylcholine
     コリンはビタミンB群の1つであり、生体内脂質の運搬に関与する。コリンリン酸エステル、すなわちPhosphatidylcholine分子は、抗コレステロール作用を有するレシチンの構成因子である。Phosphatidylcholine製剤は、血中脂質の運搬を促進し、脂質代謝を改善し,血清中コレステロール値および中性脂肪値を低下させる。
  6. メリナミド
     腸管腔でコレステロールエステルを加水分解するCEase(cholesterol esterase)の作用、腸管粘膜細胞内でコレステロールをエステル化するACAT(acyl CoA cholesterol acyltransferase)の作用をそれぞれ抑制することにより、食事性コレステロールの消化管吸収および腸肝循環しているコレステロールの再吸収を抑制すると考えられる。
  7. クロフィブラート系薬剤
     a.肝におけるTG、VLDLの合成抑制 b.TG豊富なリポタンパクの異化促進 c.中性ステロールの胆汁中への排出促進 などがおもな作用機序といわれる。家族型高中性脂肪血症(V型)、高TG血症に有効である。フィブレート系薬物は血中でアルブミンと結合して存在するので、アルブミン結合性薬物の併用時は注意が必要となる。特に、ワーファリンの作用を増強する。別に、血小板凝集能低下、血漿フィブリノーゲン濃度を低下する作用があり、血液凝固線溶系に影響を及ぼす。
  8. ニコチン酸製剤
     ニコチン酸製剤は抗高脂血症作用と血管拡張作用(血管平滑筋細胞への直接作用とプロスタグランジンEの生合成促進作用)を有する薬物で、米国のNIHではニコチン酸を高脂血症の第一選択薬として指示している。本薬物の作用機序は組織からの脂肪酸の動員の低下による肝臓でのTGやVLDLの合成の抑制である。また、ニコチン酸エステルは、体内で徐々に加水分解されてニコチン酸を遊離することから、ニコチン酸のプロドラッグとして用いられている。
  9. デキストラン硫酸ナトリウム
     デキストラン硫酸ナトリウムはヘパリン様作用を有し、LPL活性および肝性トリグリセリドリパーゼ活性を促進することでVLDL、LDLの異化を促進すると考えられている。
  10. パンテチン
     生体内でCoA(コエンザイムA)となり、リポ蛋白代謝異常の改善、血管壁脂質代謝異常の改善や血小板機能異常の改善をする。
  11. リボフラビン酪酸エステル
     生体内でリン酸リボフラビン(FMN)またはフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)になり、ミトコンドリアのチトクローム系、脂肪酸・ブドウ糖・グリシン・キサンチンの酸化酵素として働く。コレステロール・中性脂肪等の低下、HDLコレステロールの上昇、肝・血清中の過酸化脂質の減少、血小板凝固能の抑制作用がある。
  12. エラスターゼ
     肝でのコレステロールの異化と排泄を促進。さらに、リポ蛋白リパーゼ及びLCAT活性を高め、リポ蛋白代謝、すなわち超低比重リポ蛋白(VLDL)、低比重リポ蛋白(LDL)、高比重リポ蛋白(HDL)代謝を改善する。
  13. イコサペント酸エチル
     抗血小板作用、動脈の進展性保持作用、血清脂質低下作用などの多面的な薬理作用を有し、閉塞性動脈硬化症に対して高い有用性が認められている。
  14. ウルソデスオキシコール酸
     利胆作用、肝血流量増加作用、胆汁のコレステロール不飽和化作用を有し、また、チアミン、リボフラビンの吸収増大、アスコルビン酸の肝腎内への蓄積増加、肝グリコーゲン蓄積作用を有する。コレステロール系胆嚢内結石の溶解に使用される。

5.現在使用されている主な抗高脂血症薬

成分名 商品名 一日用量 適用病型 特 徴
HMG-CoA還元酵素阻害剤 プラバスタチン メバロチン 10〜20r Ua Ub LDL低下に非常に有効
シンバスタチン リボパス 5〜10r
フルバスタチン ローコール 20〜60r
陰イオン交換樹脂剤 コレスチラミン クエストラン 8〜12g Ua Ub 服用量が多くコンプライアンスが悪くなる。
プロブコール ロレルコ 500〜1000r Ua Ub 抗酸化作用が有る。HDLを上げる。
シンレスタール
リノール酸類 ポリエンホスファチジルコリン EPL 1500r V W X Cholのエステル化を阻害しCholの吸収を抑制
メリナミド アルテス 1500〜2250r
植物ステロール ソイステロール モリステロール 1200r V W X 腸管でのCholの吸収を抑制
ガンマ・オリザノール ハイゼット 300r
フィブラート系薬剤 クロフィブラート アモトリール 750〜1500r Ub V W 糖尿病患者の高TG血症に適する。
クリノフィブラート リポクリン 600r
シンフィブラート コレソルビン 750〜1500r
ベザフィブラート ベザトールSR 400r
ニコチン酸製剤 ニコモール コレキサミン 600〜1200r Ub V W X 血糖降下剤と併用注意。
(耐糖能悪化)
ニセリトール ペリシット 750〜1500r
ニコンチン酸トコフェノール ユベラニコチネート 300〜600r
デキストラン硫酸 MDS 450〜900r Ub W X TG低下作用が強い
その他 パンテチン パントシン 600r V W X
リボフラビン酪酸エステル ハイボン 60〜120r
エラスターゼ エラスチーム 3〜6錠
イコサペント酸エチル エパデール 1800〜2700r
ウルソデスオキシコール酸 ウルソ 150r

6.高脂血症とインスリン抵抗性症候群
 最近、高脂血症を1つの疾患として捉えるのではなくマルチプルリスクファクター症候群*の一部として捉えいく考え方が発表されているので、ここに紹介する。
 以前から1人の患者に糖尿病、高血圧、高脂血症が合併して認められることはよく知られていた。1988年にReavenは高インスリン血症に着目し、インスリン抵抗性、高インスリン血症、耐糖能異常、高VLDL-TG血症、低HDL-C血症、高血圧を合併する病態に対してシンドロームXという概念を提唱した。翌年にはKaplanが上半身肥満、耐糖能異常、高TG血症、高血圧を認める同様の病態を死の四重奏として発表し、その後、DeFronzoらは、これらの病態の基盤がインスリン抵抗性にあることから、肥満、NIDDM*、高血圧、脂質代謝異常、高インスリン血症、動脈硬化性疾患を伴う病態をインスリン抵抗性症候群と呼ぶことを提案した。

インスリン抵抗性とマルチプルリスク発現機序  

 マルチプルリスクファクター症候群*(multiple risk factor clusterring syndrome)
       多くの危険因子が重複して認められるため動脈硬化を起こしやすい病態  
 NIDDM* (Non insulin dependent diabetes mellitus)
       インスリン非依存型糖尿病

参考文献
    日本醫事新報No.3869(平成10年6月20日)
    Nikkei Medical  1997.6月号
    病気と薬剤 改訂第3版 薬事日報社 
    薬局Vol.46 No.10 (1995) 
     治療薬マニュアル  医学書院 (1996)

一口メモ LDLコレステロールの値は下の計算式(Friedwaldの式)で算出される。
   LDLコレステロール = 総コレステロール − ( HDLコレステロール + 1/5トリグリセライド )

以上