*狭心症の分類
心筋細胞は他の臓器組織の細胞に比べて虚血に対してかなり耐えることができ,壊死に陥るか否かの可逆,不可逆の時間的ポイントは20〜30分とされている.この短い冠動脈血途絶時に胸痛発作を伴う場合,これを狭心症という.
狭心症のうち運動負荷によって胸痛発作が発現するものを労作性狭心症,あるいは運動を負荷しなければ胸痛発作を伴わない安定した病態であるという意味から安定狭心症とも呼ばれている.これに対して安静(特に夜間就寝時)にしていても起きるものは安静時狭心症と呼ばれる.この病態は主に冠動脈の攣縮に起因するとされるが,とくにこの攣縮が発症の引き金になるものは異型狭心症と呼称される.また,@労作性狭心症の3週間以内の発症,A労作性狭心症の病像の憎悪,B安静時狭心症の新たな出現の3つの病型を不安定狭心症と呼ぶ.これらは安定狭心症に比べて1回の発作時間が10〜15分とやや長い.
不安定狭心症は急性心筋梗塞に移行する頻度が高い.
*狭心症の薬物療法
狭心症の薬物療法は主として,次の3つの機序に基づく.
A:冠動脈を拡張あるいは冠動脈攣縮を予防することにより,酸素供給量を増加するもの
→ Ca拮抗剤
B:酸素需要を減少させ,酸素供給量にみあっただけの心筋酸素消費量に抑えるもの
→ β遮断剤
C:A,Bの両方の作用を示すもの → 亜硝酸製剤,カリウムチャンネル開口剤
労作狭心症 安静狭心症 労作・安静狭心症
(冠硬化) (冠攣縮) (冠硬化&動脈硬化)
亜硝酸剤 〇 ◎ ◎
Ca拮抗剤 〇〜◎ ◎ ◎
β−遮断剤 ◎ × 〇
ニコランジル 〇 ◎ ◎
抗血小板剤 (〇) (〇) (〇)
◎:著名効果 〇:有効 ×:無効 (〇):併用が好ましい
狭心症の薬物治療の3本柱は,硝酸化合物,β−遮断剤,Ca拮抗剤で,それぞれ単独または併用して用いられる.また,不安定狭心症の予防には抗血小板剤,抗凝固剤などが併用されることもある.
労作狭心症では心筋収縮力の低下や心拍数の減少により心筋酸素需要を抑制する作用をもつβ−遮断剤を基本に,また安静狭心症(異型狭心症を含む)では,末梢血管や冠動脈の拡張作用および冠動脈攣縮の抑制作用を有するCa拮抗剤を基本に,適切に亜硝酸剤の徐放剤やテープ剤を組み合わせる.
心不全や洞不全などの心筋刺激伝導系障害を合併する患者では,心筋における負の変力作用,伝導系抑制作用の強いベラパミルやβ−遮断剤より亜硝酸製剤がよい適応となる.一方,亜硝酸製剤やジヒドロピリジン(DHP)系Ca拮抗剤で,低血圧,頭痛,顔面紅潮などの末梢血管拡張による副作用の出現する患者では,ベラパミルやβ−遮断剤が適応となる.
Ca拮抗剤とβ−遮断剤の併用をする場合には,心収縮力と伝導系に影響が少ないDHP系製剤を選択する.
本稿においては,もっとも汎用されるCa拮抗剤および亜硝酸剤について述べる.
Ca拮抗剤
*Ca拮抗剤の作用機序と効果
Ca拮抗剤は,細胞外からのCaイオン流入を抑制して,血管平滑筋および心筋細胞のCaイオン依存性収縮を抑制する.狭心症に対する作用は,@冠動脈拡張作用,A動脈拡張による後負荷軽減作用,B心筋に対する陰性変時作用および陰性変力作用である.@により心筋酸素供給量を増加させ,AとBにより心筋酸素需要量を減じ抗狭心症作用をもたらす.
*Ca拮抗剤の分類と特徴
薬物動態により第一世代から第三世代までに分類されている.
第一世代Ca拮抗剤(ニフェジピン,ジルチアゼム,ベラパミル)は血中半減期が短い.その一方で即効性がある.ニフェジピン,ジルチアゼムはともに狭心症に対して有用であるが,ベラパミルは心筋抑制と徐脈作用が強く,抗狭心症薬として単独で使用されることはほとんど無い.
通常の剤型のニフェジピンやジルチアゼムは作用時間は臨床的にみて5〜6時間である.このため,早朝に出現する冠攣縮などの発作の完全な抑制には問題があった.また,ニフェジピンでは頻脈などの反射性の交感神経興奮など降圧に伴う副作用出現の可能性を指摘されている.ジルチアゼムでは房室伝導抑制といった作用も有し,血管選択性は低いとされる.徐放剤の開発により,反射性交感神経興奮および短い作用時間などの問題は解消されつつある.
第二世代Ca拮抗剤(ニソルジピン,ニトレンジピンなど)は,第一世代Ca拮抗剤に比して血中半減期は長く,陰性変力作用は少なく,血管選択性は高い.1日1〜2回の薬剤投与で狭心症の薬物療法が可能になった.
第三世代Ca拮抗剤(アムロジピン)は第二世代Ca拮抗剤よりさらに血中半減期が長く,作用が緩徐なため神経体液性因子の活性化作用は少ない.むしろ交感神経活動を低下させるとの報告もある.アムロジピンには頻脈や心筋収縮抑制作用はほとんど認められないとされている.
*Ca拮抗剤の使い方
夜間や早朝の発作があったり,発作時にST上昇を伴うなど冠動脈攣縮の関与が疑われればCa拮抗剤が適応される.
ジルチアゼム,ベラパミルは心抑制作用が有り心拍数が低下する.これにより臨床的には徐脈を示すので,徐脈や房室ブロックの例には使えない.心不全や徐脈傾向があればDHP系Ca拮抗剤が有用であるが,一方,短時間作用型DHP系Ca拮抗剤は,この抑制効果が弱く,逆に強力な血管拡張作用(頭痛やのぼせをきたす)のため,血圧低下と圧反射により軽度の交感神経活性亢進が生じ頻脈を来すことが多いので注意する.
使用に当たっては次に留意する.
@Ca拮抗剤の投与を急に中止したとき,症状が悪化した症例が報告されているので,休薬を要する場合は徐々に減量し,観察を十分に行う.また,医師の指示なしに服薬を中止しないように指導する.
A降圧作用に基づくめまい等があらわれることがあるので,高所作業,自動車の運転等危険を伴う機械を操作する際には注意させる.
B血中濃度半減期が長く投与中止後も緩徐な降圧効果が認められるので,中止後に他の降圧剤を使用する場合には,用量並びに投与間隔に留意するなど患者の状態を観察しながら慎重に投与する(半減期の長いCa拮抗剤の場合).
CCa拮抗剤は,肝代謝型薬物であるから,重篤な肝障害のある患者には慎重に投与する.
DCa拮抗剤の副作用としてパーキンソン症候群の誘発・悪化が注目されているので,神経症状には十分注意する.
亜硝酸剤
*亜硝酸剤の作用機序
亜硝酸塩は,ほとんどの狭心症に効果を示すが,心筋梗塞に対してはあまり効果が無い.心臓に対してはほとんど作用を示さず,心拍数増加は血圧降下の反射によるものである.亜硝酸剤の特徴は,すべての平滑筋を弛緩させることであるが,特に血管平滑筋を弛緩させる.この機序によって脳血管,冠血管をはじめ,ほとんどの血管は拡張する.また,主として静脈系血管を拡張させることによって,心臓に戻る血液量が減り(心臓の前負荷を減少),ひいては後負荷(拍出負担)も減少させて,心臓の仕事量も減少(心筋の酸素需要量を)する.
また,太い動脈を拡張させる.狭心症では狭窄血管灌流域の細動脈は酸素不足のため,最大限に拡張しているので,太い動脈の抵抗が血流の増減に影響する.そこで太い動脈が開けば,虚血部位への血流が期待できる.
一方,冠動脈(特に太い冠動脈)を拡張させ心筋への血流を増加させ,酸素の供給を増やす.以上の機序により,虚血性心疾患の治療には理に合った治療剤である.
*亜硝酸剤の使い方
亜硝酸剤を使う場合には,一般的に次のように指導する.
@症状発現時には迷わずニトロの舌下錠を使用する.
多くの患者は軽い発作は我慢するべきと考えているので,我慢せずニトログリセリンを
舌下服用すべきことを理解させ,予め発作が起こることが予想される場合には5分前に
ニトログリセリン1錠を舌下に用いる習慣をつけさせる.
A症状発現の時間帯に合わせた服用に留意する.
舌下錠以外の薬剤は内服後1時間経過しないと十分な効果を発揮しないので,発作の起
こり易い時間帯の1時間前には服用しているようにする.
B発作が15分以上も続き,ニトログリセリンなどの亜硝酸剤の投与で寛解しない場合には
不安定狭心症か急性心筋梗塞を考慮する.
Cニトログリセリン舌下の繰返し投与によって耐性が生ずるかもしれないとの配慮で,発
作時でも服用を我慢する患者がみられるが,これは危険である.舌下投与ではほとんど
耐性は出現せず,仮に耐性が発生しても,投与しない時間を作ると速やかに消失する.
労作狭心症であれば労作時に起こるため,通常日中に薬剤が有効血中濃度にあればよいので,3回分服が通常であるが,安静狭心症の場合,例えば夜間睡眠時のみに起こるならば,睡眠前に徐放性亜硝酸剤とカルシウム拮抗剤を服用させる.
亜硝酸剤は,高齢者,脱水傾向にある患者,糖尿病患者,利尿剤の併用などで起立性低血圧のある場合には,1枚のテープ剤によってでも低血圧をきたすことがあるため,1/2枚など少量から投与を開始して血圧に注意しながら徐々に増量する.
収縮期血圧が下がるとふらつきなどの脳循環障害をきたすが,虚血性心疾患では,特に拡張期血圧(冠灌流圧に相当する)が下がり過ぎないように注意する.
参考:薬苑 第440号
medicina 1997 vol.34 no,8
疾患別 服薬指導マニュアル第1集
医薬品の適正使用指針 医薬ジャーナル社