1. 皮膚真菌症について

◇ 真菌

 我が国では古くから、日本酒、泡盛、焼酎、味噌、醤油等の醸造にアスペルギルス・ソウエをはじめとするアスペルギルス属の菌を麹として利用し、カツオ節の熟成には、子のう世代を持つ好乾燥性のアスペルギルスであるユウロチウムが利用されてきた。すなわち、我が国では多くの種類のコウジカビ属に分類される菌が利用されてきたことになる。中国では、我々になじみの深い招興酒がモノアスクス属に分類されるベニコウジカビを用いて醸造されている。この他にも、アジア、アフリカの伝統的発酵食品には真菌を利用したものが多い。

 また、工業的利用として有機酸と酵素の利用が重要であろう、コウジカビ、アオカビ、クモノスカビなどが生産するクエン酸、フマル酸、リンゴ酸、グルコン酸、乳酸などはその壮快な酸味を清涼飲料、果実酒、合成酒、ジャム、冷菓、菓子の酸味料として幅広く用いられている。

 医薬品への応用として、真菌から開発されたものとしてペニシリンが有名であるが、セファロスポリンなどのセフェム系抗生物質、グリセオフルビンなどの抗真菌剤、サイクロスポリンA、ミゾリビンなどの免疫抑制剤、プラバスタチンなどの高脂血症治療剤などが真菌を素材として開発され医療現場で使用されている。

 このような例を見ると、真菌は我々と密接な関係を保って共存していると言える。

◇ 真菌による病気

 真菌は広く自然界に分布しており、その種類も数万種あることが知られているが、そのうちヒトに対して病原性を有するものは約50種といわれている。真菌による感染症すなわち皮膚真菌症には2種類あり、病変が生じる部位が浅いか深いかによって浅在性皮膚真菌症と深在性皮膚真菌症とに分けられる。

 浅在性皮膚真菌症は、真菌の感染が角質・表皮といった皮膚の表層に留まっているものであり、馴染み深い水虫・タムシなどの白癬、皮膚カンジダ症、癜風、マラセチア毛包炎、慢性粘膜皮膚カンジダ症、口腔カンジダ症、外陰カンジダ症等が大部分で皮膚真菌症の90%を占める。一方、深在性皮膚真菌症は、感染が真皮から皮下組織、さらに深部に及んだものであり、スポトリコーシス、クロモミコーシス、皮膚クリプトコッカス症、深在性白癬などがある。

 今回は、この浅在性皮膚真菌症について、疾病の概要、市販製品・適応症、注意、について述べる。

◇ 真菌がヒトに感染するルートは?

 真菌症は、真菌が人間の組織に寄生することによって生じる感染症である。ここでは、頻度の高い白癬、カンジダ症、癜風について、その感染経路を述べる。

 ・ 足白癬の感染経路…

 最も頻度の高い足白癬(=水虫)では、足白癬患者が持っている白癬菌が、足白癬を持っていないヒトに付着することで感染する。感染経路は足と足が直接接触する感染経路と、プール、銭湯、飲食店、スリッパなどの環境中に散布された白癬菌が健常人の足底に付着する経路が考えられるが、後者がほとんどである。白癬菌は環境中に落ちても、数日から、報告によれば数ヶ月も生存し、感染力があると言われている。健常人に白癬菌が付着しても必ず白癬を発症するわけでなく、付着しても足を洗ったり、拭いたりすることで容易に落ちてしまうのであるが、付着しつづけることで感染が始まると考えられている。

 ・ 爪白癬の感染経路…

 爪白癬は足白癬の次に頻度の高い真菌症である。足白癬を放置しているうちに、爪囲の皮膚から爪に連続的に感染すると考えられている。従って、爪白癬のある患者は足白癬を合併しているか、過去に足白癬の既往がある。

 ・ 体部白癬(=たむし)・股部白癬(=いんきんたむし)の感染経路…

 これらの病型でも、@感染源と直接接触する経路、例えば自分の水虫を手でさわったり、その手でからだをさわる経路A環境中に散布された菌が付着する経路、例えばプールや温泉の床に座る、水虫の足を拭いたタオルでからだを拭くなどの経路が考えられる。この病型を有する多くのヒトは足白癬があり、それを放置しているヒトがほとんどである。

 ・ カンジダ症の感染経路…

 カンジダは、健常人のおもに口腔、咽頭、糞便、膣の粘膜に腐生的に存在している常在菌であるので、ただ存在するだけでは感染とはいえない。しかし、加齢や全身疾患で免疫能が低下したり、広域抗生物質の投与により細菌フローラが抑制されるとカンジダの異常増殖がおこりカンジダ症が発病する。

◇ 真菌はどのように生きのびているか?

 皮膚の最外層を形成する角質細胞は、ケラチンを内包すると共に周辺帯を形成しており、細菌類の生体への侵入や物理化学的な刺激に対するバリアーとして機能している。

 ・真菌はどのように角質層に侵入するのか…

 カンジダに感染した皮膚を電子顕微鏡で観察すると強靭な角質層が溶解している像が認められる。このことは、菌が角質細胞やケラチン繊維を酵素学的に溶解したことが示唆される。カンジダ菌は蛋白分解するプロテアーゼ(カルボキシルプロテアーゼ)を産生して角質層に侵入すると同時に、これら蛋白の分解産物のペプチドやアミノ酸を栄養源として利用し増殖している。白癬菌でも同様であるが、白癬菌はセリンプロテアーゼを産生し、皮膚角質、毛髪、爪を分解している。

 ・表在性真菌はどうして顆粒層以下に侵入できないのか…

 皮膚の顆粒層には、血清成分が組織液として流れているため角層の最下層までしか侵入できない。その侵入の阻止因子は、菌の発育に必要な鉄をキレートするトランスフェリンであること、表皮細胞には殺菌作用を示すリゾチームや塩基性蛋白が存在していること、菌が浸潤増殖してゆくために必要なプロテアーゼ活性を抑制するプロテアーゼインヒビターが血清や表皮細胞に存在するためで、これらが相補的に作用して真菌の顆粒層以下への侵入を阻止していると言われている。

◇ 水虫はどうしてカユイのか

 痒みには、オピオイドペプチドを介する中枢性の痒みと、痒みレセプターを介する末梢性の痒みがある。末梢性の痒みは、表皮真皮接合部にある痒みレセプターにヒスタミンなどの起痒物質により刺激され生じたインパルスが求心性C繊維により脊髄に伝達され、脊髄視床路から大脳皮質に達し痒みが認識される。水虫で生じる痒みは主として、白癬菌や炎症細胞の産生放出するプロテアーゼや、炎症に伴って生じるケラチノサイト由来のサイトカインが痒みレセプターを刺激するものと考えられている。

◇ 水虫は治るか

 「治るか」とは、「治療を行い治癒するか」ということであるが、治癒とは一般的に「自覚症状のみならず、鱗屑、紅班、子水泡などの皮膚症状が消失し、直接鏡検が陰性化した状態」をいう。趾間型及び子水泡型の水虫は抗真菌外用剤、また角質増殖型及び爪白癬の合併があれば抗真菌経口剤の適応になるが、外用剤、経口剤の新規開発によってほとんどの水虫は治療を継続することで『水虫は治る』と言える。しかし、治癒する前に治療を中断してしまう、または中止せざるを得ないことが多く、このことが『水虫は治らない』と一般に考えられている大きな要因である。

 ・治療を障害する要因…

 @ 一般的に自覚症状が消失すると治癒したと自己判断によって治療を中止する。

 A 最近1日1回の塗布で効果がある外用剤が登場しコンプライアンスは改善したが、最低1ヶ月の治療が必要であるのに毎日行うことが大変である。

 B 副作用による中断として、外用剤では刺激や接触皮膚炎の発生が見られるが重篤な報告はない。経口剤では、ラミシールは肝機能障害の報告があり、イトリゾールはテルフェナジンなど併用禁忌薬があり、グリソビンFPは後述する重大な副作用の他、消化器症状、光線過敏症等などの副作用を生じる。

◇ 抗真菌剤はいつまで塗りつづけるのか?

 外用真菌剤の治療期間は、菌が表皮の角質内に寄生することから、表皮turn overから考えると

○ 体部白癬・股部白癬・カンジダ症・癜風(でんぷう)は約2週間を目安とし、その2〜3倍の期間外用を続ける。つまり、28日から42日ということになる。

○ 足底の角質は厚いので、turn overは3ヶ月と言われているので、3〜4ヶ月は塗布しつづけることが必要である。

◇ 抗真菌剤とステロイド外用剤の併用

 一般に、真菌感染症にステロイド外用剤を使用すると症状が改善しない、又は悪化すると言われている。治療上、炎症性の症状が強い場合は、炎症を押さえてから治療したり、検査のために投与されることがある。この場合、漫然と長期に外用ステロイド剤が投与されている時には、医師に疑義照会する必要がある。

◇ 併用注意

●グリセオフルビン製剤

  グリセオフルビン製剤の作用が減弱するもの:バルビツール酸誘導体

  併用薬の作用が減弱するもの:ワルファリン系抗凝血剤、経口黄体・卵胞ホルモン

●イトラコナゾールCap(イトリゾール)

  イトラコナゾールの血中濃度を低下するもの:H2遮断剤、リファンピシン、フェニトイン

  併用薬の血中濃度を上昇するもの:シサプリド、シンバスタチン、ミタゾラム、シクロスポリン、ジゴキシン、フェロジピン、ニフェジピン

  併用薬の作用を増強するもの:ワルファリン

  併用薬の副作用を増強するもの:ビンカアルロイド系抗悪性腫瘍剤

●塩酸テルビナフィン錠(ラミシール錠)

  併用薬の血中濃度を上昇するもの:シメチジン

  併用薬の血中濃度を低下するもの:リファンピシン

◇ 併用禁忌

●イトラコナゾールCap(イトリゾール)

@ テルフェナジン(トリルダン)、アステミゾール(ヒスマナール):

 まれに、QT延長、心室性不整脈、あるいは外国では心停止(死亡を含む)などの心血管系の副作用が報告されている。

A トリアゾラム(ハルシオン):

 代謝遅延による血中濃度の上昇、作用の増強、及び作用時間の延長が報告されている。


参考文献
大城戸宗男:皮膚疾患へのアプローチ、医学書院.1984
宮地良樹:水虫Q&A、医薬ジャーナル社、1998
荒田次郎:皮膚科領域感染症 Q&A、医薬ジャーナル社、1998
御手洗聡ほか:真菌症と抗真菌剤、医薬ジャーナル社.,VOL.33 No.7 1997
飲泉陽子:皮膚真菌症の治療.MEDICAMENT NEWS. NO1546. 1997
シオノギ製薬添付文書、K.K.添付文書、ヤンセン協和K.K.添付文書


2.抗真菌剤の重大な副作用と初期症状

薬 品 名 重大な副作用 初期症状
イトリゾールカプセル 肝障害、黄疸 38〜39℃の発熱、発疹、食欲不振・吐き気、全身倦怠感
急性心不全 呼吸困難、全身の疲労感、浮腫(特に下半身)
ラミシール錠 無顆粒球症 咽頭痛、発熱、口内炎、全身倦怠感
血小板減少症 皮膚の点状出血・紫斑、出血傾向(歯肉出血、鼻血など)
汎血球減少症 咽頭痛、発熱、口内炎、全身倦怠感
皮膚粘膜眼症候群 発熱、関節痛、目の充血、皮膚の紅斑・熱傷様症状、口唇の発赤、口内炎
グリセオフルビン製剤
(グリソビンFP等)
皮膚粘膜眼症候群 発熱、関節痛、目の充血、皮膚の紅斑・熱傷様症状、口唇の発赤、口内炎
SLE様症状 39〜40℃の発熱、筋肉痛、関節痛、全身の皮膚発赤、顔面の発疹・発赤、リンパ節の腫脹
末梢神経炎 手足のしびれ・チクチクした痛み



併用禁忌薬

イトリゾールカプセル トリルダン錠、
ヒスマナール錠、
ハルシオン錠、
アセナリン錠
(イトリゾールにより作用が増強される)


解 説

◇ 肝障害、黄疸

 服薬開始から発症までの期間は2週間以内が38%、4週間以内が61%、8週間以内が81%、平均約60日という報告がある。また前掲の初期症状のなかでは発熱やアレルギー症状が先行してあらわれ、1週間程度遅れて消化器症状や倦怠感が出現する傾向がみられる。症状の進展が非常にゆっくりとした場合もあるので、予防策には定期的な肝機能検査の実施が第一である。

◇ 急性心不全

 国内で4例の死亡報告がある。そのいずれもが、白血病で骨髄移植後の免疫抑制状態という特殊な症例で、深在性真菌症の治療または予防のために本剤1日100mgの投与を開始し、39〜179日後に急性心不全を発現した。その発現機序は明らかになっていない。
 これまでにその他の報告事例はないが、癌末期や大量ステロイド投与中などで免疫抑制状態にある患者でも同様のリスクがあると考えられるので、注意すべきである。

◇ 無顆粒球症

 無顆粒球症とは白血球が極端に減少した状態で、重大な感染症を引き起こす可能性が高い。したがって、前掲の症状は感染症の初期症状と言うことができる。現在のところラミシール錠での報告例が国内ではないので、他剤での服薬開始から本症発現までの期間を参考にすると、メルカゾール15日〜2年、アジマリン1日〜6カ月、アスピリン1〜3日と幅が大きく、薬剤間でも傾向が異なる。
 本症の発現率はメルカゾールで0.19%、シメチジンで0.07%、チクロピジンで0.11%と低値だが、発症後の死亡率は約17%にも及ぶ危険な副作用である。

◇ 血小板減少症

 血小板が減少すると全身的な出血傾向が現れる。血小板数の正常値は血液1あたり15〜30万であるが、5万以下になると点状出血や非外傷性の斑状出血が認められ、1万以下になると脳内出血など、体深部の重大な出血が起きやすくなる。
 服薬開始から発症までの期間は1週間から数カ月のものが大半で、それより短いものは少ない。ただし、以前に短期間でも本剤の服薬歴があり、既に抗体が形成されている場合は、2度目の服薬を開始すると3日以内に急激な血小板減少を来すこともある。

◇ 汎血球減少症

 汎血球減少症とは薬剤によって造血機能が抑制され、赤血球、白血球、血小板の全てが減少した状態を言う。血球減少は造血サイクルの短い順番(白血球、血小板、赤血球の順)に現れるので、最初に無顆粒球症に注意すればよい。したがって、初期症状や発現に要する期間なども無顆粒球症の項目を参考とする。

◇ 皮膚粘膜眼症候群

 本症は重篤なアレルギー反応の一つと考えられ、急性期の死亡率が10%以上に及ぶ危険な副作用である。最初に感冒様の前駆症状を呈し、発熱、頭痛、関節痛があらわれる。口内粘膜、外陰部粘膜、眼粘膜などに紅斑や水膨れが出現した場合は、速やかに適切な処置を施す必要がある。
 服薬開始から発症までの期間は、早いもので3日以内、多くは1〜3週間程度とされている。

◇ SLE様症状

 本症の発現は、薬剤投与開始後2〜3週間であらわれることが多い。また多くの場合、最初に顔面に紅斑や丘疹が出現し、12〜48時間で全身に拡大し、発熱、悪感、全身倦怠感を伴う。皮膚は暗赤色、浮腫状となる。通常はかゆみを伴わないが、強いかゆみを訴えることもある。適切な処置が遅れて全身状態が悪化すると、体温調節異常をきたして生命にも危険が及ぶ。原因薬剤を中止しても皮疹はなかなか改善せず、完治までに4〜6週間を要することが多い。

◇ 末梢神経炎

 初期症状は四肢末端(足の指が多い)のしびれやチクチクした痛みなどの知覚異常であらわれ、膝、手指と上方へ拡大していく場合が多い。
 本症の初期は表在知覚である痛覚・触覚・温度覚が障害されるが、進行すると深部知覚の位置覚・振動覚まで異常が生じ、運動障害を合併することもある。
 初期の段階で薬剤を中止すれば、通常は数日から数週間以内に回復するが、進行した場合には回復不能になることもある。


参考文献:重大な副作用回避のための服薬指導情報集,薬業時報社
      月刊薬事,vol.40,No.4,重大な副作用とそのモニタリング



以上

岐阜県薬剤師会ホームページに戻る